小説ドラゴンクエスト

高屋敷英夫著 1989年、エニックス

悪の権化、竜王がアレフガルドの地を席巻して200年。
辛うじて生き残った人々は、魔物におびえながら暮らしていた。
王都ラダトームの城下町に住む鍛冶屋の息子アレフは、15歳の誕生日に偶然自分が伝説の勇者ロトの子孫であることを知り、
竜王討伐の旅に出ることになる。
果たしてアレフは行方不明のローラ姫を救出し、竜王を討ち果たすことができるのだろうか?

記念すべきドラゴンクエスト小説化の第一弾です。
初版が出たのが1989年ですので、ドラクエ3が出た翌年ということになります。
なので、ドラクエ2、3で明らかになった設定なども一部盛り込まれています。

さて、この小説、基本的にはゲーム本編のストーリーをほぼ忠実になぞる形になっています。
ゲームでは言葉を発しないせいで無個性に間感じられるドラクエの主人公。
この小説では、少々子供っぽくて頼りないところもあるが、正義感に厚い熱血漢といったキャラクター付けがされています。
また、主人公は言い伝えに示された日に生まれた子どもで、生まれ故郷はドムドーラ。
ドムドーラが滅ぼされたのも赤子の主人公を狙ってのことで、運命に導かれて生き延びたところを育ての親である鍛冶屋に拾われたという設定。
加えて「ロトの血を引くものが王女の愛を得たとき、悪を滅ぼす力を得る」という伝説があり、ローラ姫が拉致されたのもそれが原因。
このように、ゲーム中で起こった出来事にきちんと必然性を与えることで、ストーリーの骨格をしっかりとしたもにしています。
また、小説オリジナルのキャラクターとしてガルチラなる人物が登場します。
仇討ちのために旅をしている青年で、成り行きでアレフと行動を共にすることに。
ちなみに彼が携えている銀の横笛は、高屋敷版三部作に共通して出てくるキーアイテムです。
主人公一人だとどうしても話が広がらないと考えての配慮でしょう、ガルチラがいるおかげで旅のエピソードが膨らんでいます。
さらに、竜王直属の配下として六魔将と呼ばれるモンスターが設定されています。
ゲーム本編ではにはドラゴン、悪魔の騎士くらいしか中ボス戦がありませんが、六魔将の存在によってストーリーに山場ができています。

旅の描写が詳しいのも、高屋敷版ドラゴンクエストの長所。
野営をしたり、傷の手当をしたり、足にまめができたり。
町から町へと移動する間の時間経過がきちんと描かれているのもいいですね。
ちなみに、アレフが旅立ってから凱旋するまで420日だそうで。
それほど広くないとはいえ、アレフガルドを端から端まで歩き回るわけですから、そのくらいかかるのも当然でしょうか。
実際のゲームでは実感できない時間の流れ、これをがちんと表現されることでリアリティがグッと増しています。
町に着くたびにその町の人口、産業などについての解説が入るのも後のシリーズに共通する特色となっています。

また、魔物同士の権力闘争の描写も高屋敷版ドラゴンクエストの特色です。
1ではまだそこまで顕著ではありませんが、大魔道ザルトータンと他の魔将たちとの反目が失策を招き、
アレフたちに有利な状況を作り出したりします。
2や3になると、この権力闘争がもっと大きくストーリーに絡むようになります。

第一弾ということで、後に執筆されるシリーズに比べると若干完成度は落ちるように思えますが、
それでもドラゴンクエストの世界を過不足なく表現したといえるでしょう。
さすがにドラクエを全く知らない人には勧めにくいですが、それでも単体の読み物として十分に楽しめる内容です。
他のシリーズも同様ですが、交響組曲ドラゴンクエストを聞きながら読むとムード抜群ですよ。




宿屋に泊まったときの「お楽しみ」は残念ながら無し。
チューくらいしちゃいそうないい雰囲気にはなりますが、ガルチラに邪魔されますw


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